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HBs抗原とは?:
B型肝炎ウイルス(HBV)は、直径42nm(ナノメーター:1nmは1mの10億分の1の長さ)の球形をしたDNA型ウイルスで、ヘパドナ(ヘパ:肝、ドナ:DNA、つまり肝臓に病気を起こすDNA型のウイルスという意味)ウイルス科に属します。 ウイルス粒子は、二重構造をしており、直径約27nmの芯(コア、core)と、これを被う外殻(エンベロープ、envelope)から成り立っています。 HBV粒子の外殻を構成するタンパクが、HBs抗原タンパクであり、コアを構成するタンパクがHBc抗原です。 HBVが感染した肝細胞の中で増殖する際には、HBVの外殻を構成するタンパク(HBs抗原)が過剰に作られ、ウイルス粒子とは別個に直径22mmの小型球形粒子あるいは桿状粒子として血液中に流出します。一般にHBVに感染している人の血液中には、HBV粒子1個に対して小型球形粒子は500倍から1000倍、桿状粒子は50倍から100倍存在します。 なお、HBc抗原は、外殻(エンベロープ)に包まれて、HBV粒子の内部に存在することから、そのままでは検出されません。
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HBs抗体とは?:
HBs抗体は、B型肝炎ウイルス(HBV)粒子の外殻、小型球形粒子、桿状粒子(HBs抗原)に対する抗体です。一過性にHBVに感染した場合、HBs抗体はHBs抗原が血液の中から消えた後に遅れて血中に出現します。
HBs抗体は、HBVの感染を防御する働き(中和抗体としての働き)を持っています。従って、HBVの一過性感染経過後にHBs抗体が陽性になった人は、再びHBVに感染することはない(免疫を獲得した)ことを意味します。
HBVの感染予防を目的に、HBs抗体が強陽性の(多量に含む)ヒトの血液を集めて特別に作られたガンマグロブリン製剤を、「高力価HBsヒト免疫グロブリン:HBIG」といい、HBVの母子感染予防の際や、HBVに汚染された事故の際の感染予防に活用されています(受動免疫)。また、感染予防の目的でHBVに対するワクチン(HBワクチン)を接種して身体にHBs抗体を作らせること(能動免疫)も行われています(「母子感染の予防」の項で後述)。
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HBc抗原とは?:
HBc抗原はHBV粒子を構成するタンパクですが、外殻(エンベロープ)に包まれてHBV粒子の内部に存在することから、そのままでは検出できません。検体に特殊な処理をほどこし、HBV粒子をバラバラに破壊することにより検出する試みが行われています。HBc抗原の検査は、まだ日常検査の中には取り入れられてはいません。近い将来、HBc抗原それ自体を検出、定量する方法が日常検査の中に取り入れられれば、HBVキャリアの血液中のウイルス量を簡便に知るため、感染した肝細胞の中でのウイルス増殖の状態を知るため、さらにはHBVに対する抗ウイルス療法を行った場合の効果評価を行うための方法として活用できることが期待されます。
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HBc抗体とは?:
HBc抗体はB型肝炎ウイルス(HBV)のコア抗原(HBc抗原)に対する抗体です。HBc抗体にはHBVの感染を防御する働き(中和抗体としての働き)はありません。
HBVに一過性に感染すると、HBc抗体はHBs抗原が血液中から消える前の早い段階から出現します。まずIgM型のHBc抗体が出現し、これは数ヶ月で消えます。IgG型のHBc抗体は、IgM型のHBc抗体に少し遅れて出現します。このようにして作られたHBc抗体はほぼ生涯にわたって血中に持続して検出されます。
IgM型HBc抗体が陽性ということは、その人が比較的最近、HBVに感染したことを、またIgG型HBc抗体が陽性ということは、その人が過去にHBVに感染したことを意味します(感染既往)。
一方、HBVキャリアでは、一般に、血液中にHBs抗原とともに高力価のHBc抗体が検出されます(HBc抗体「高力価」陽性)。
これは、HBVキャリアでは、(1)血液中に放出され続けるHBV粒子の中のHBc抗原による免疫刺激に身体がさらされ続けていることから、HBc抗体がたくさん作られ血液中に大量に存在すること、(2)HBc抗原がHBV粒子の外殻に包まれた形で存在するために、血液中のHBc抗体が抗原・抗体反応によって消費されないこと、によるものと解釈されています。
これに対して、HBVが身体から排除されてなおった場合(HBVの感染既往者)では、年単位の時間をかけて血液中のHBc抗体の量は徐々に低下します。その結果、HBVの感染既往者では、一般にHBc抗体は「中力価」〜「低力価」陽性を示します。この性質を利用して、HBc抗体の力価を測定することにより、HBVキャリアの診断に応用することが行われています。
なお、その人自身の健康に影響を及ぼすことはないものの、血液中にHBs抗原が検出されない場合(HBs抗原陰性)でも、HBc抗体陽性の人では肝臓の中にごく微量のHBVが存在し続けており、血液中にも、核酸増幅検査(NAT)によりごく微量のHBVが検出される場合があることがわかってきました。
核酸増幅検査(NAT)
核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test:NAT)とは、標的とする遺伝子の一部を試験管内で約1億倍に増やして検出する方法で、基本的にはPCRと呼ばれていたものと同じ検査法です。 この方法をB型肝炎ウイルスの遺伝子(HBV
DNA)の検出に応用することにより、血液(検体)中のごく微量のHBVの存在を知ることができます。このことから、HBVに感染して間もないために、HBs抗原がまだ検出されない時期(HBs抗原のウインドウ期)にあたる人を見つけ出したり、HBs抗原は陰性でHBc抗体だけが陽性である人の中から、現在HBVに「感染している」人(非定型的なHBVキャリア)を見つけ出すためにNATを応用してスクリーニングを行ない、輸血用血液の安全性の向上のために役立てられています。(詳しくは、詳Q28をご覧下さい。) また、NATにより血液中のHBV
DNAの量を的確に測定する(定量する)こともできるようになったことから、HBVキャリアの経過を適切に把握し、健康管理に役立てたり、抗ウイルス療法を行った際の経過観察や治療効果の判定に役立てられています。
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HBe抗原とは?:
一般に、検査室で検出されるHBe抗原は、感染した肝細胞の中でB型肝炎ウイルス(HBV)が増殖する際に過剰に作られ、HBV粒子の芯(コア粒子)を構成するタンパクとは別個に血液中に流れ出した可溶性のタンパクであることがわかっています。
血液中のHBe抗原が陽性ということは、その人の肝臓の中でHBVが盛んに増殖していることを意味します。言いかえれば、HBe抗原が陽性のHBVキャリアの血液の中には、HBVの量が多く、感染性が高いことを意味します。なお、HBVの一過性感染者でも、ウイルスの増殖が盛んな感染初期には、一時的にHBe抗原が陽性となります。
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HBe抗体とは?:
HBe抗体はHBe抗原に対する抗体です。HBe抗体にはB型肝炎ウイルス(HBV)の感染を防御する働き(中和抗体としての働き)はありません。
HBVに一過性に感染した場合、HBs抗原が血液中から消える前の早い時期から、HBe抗原は検出されなくなり、代ってHBe抗体が検出されるようになります。
HBVキャリアでは、肝臓に持続感染しているHBVの遺伝子の一部に変異が起こると、肝細胞の中でのHBe抗原タンパクの過剰生産と血液中への放出がとまることがわかってきました。このような変化が起こると、HBe抗原に代ってHBe抗体が検出されるようになります。HBe抗体が陽性になると、一般に、HBVの増殖もおだやかになり、血液中のHBV粒子の量が少なくなることから、血液の感染力も低くなることがわかっています。
HBVキャリアのうち、小児期ではHBe抗原陽性ですが、多くの人では10歳代の後半から30歳代にかけてHBe抗原陽性の状態からHBe抗体陽性の状態へ変化し、これを契機に、ほとんどの人では肝炎の活動度も沈静化することがわかっています。 |